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ABOUT

「白鳥は死ぬ前に一度だけ、たまゆらに美しい声で鳴くと申します・・・・・・」

 

――何が嘘で、何が真実なのか・・・・・・?

 

真夜中の芝居小屋に取り残された、老いたる孤独な道化役者。瀕死の老優は、不意に現れたプロンプターを相手に、若き日の恋を語る。芝居と人生への憎まれ口を叩きながら、おもむろにシェイクスピアの名場面を演じはじめる・・・・・・。チェーホフの『白鳥の歌』は、短い一幕物の二人芝居だ。1887年発表。モスクワ初演は翌88年。日本では1924年(大正13)に築地小劇場の柿落としの一本として、小山内薫の演出により上演されたこともある。

 

 

俳優小林達雄の呼びかけで、この小品を原作とする舞台『スワン・ソング』が、2012年(平成24)の冬、2日間だけ上演された。小林はミック・ジャガーと同世代だ。新劇からアングラへと、激動の現代演劇史を全身で生きてきた。そんな小林が老優を演じるこの舞台は、もはや翻案の域を越え、ほぼ新作というべき特異な「魂の劇」となって反響を呼んだ。

ユーモアとペーソスが入り交じり、喜劇か悲劇かわからないのがチェーホフ劇だ。独自な台本と演出(福田光一)は、「芝居についての芝居」の謎を増幅する。「はたして老優は名優か迷優か?」「プロンプターは何者か?」・・・・・・影土優演じるプロンプターに加え、狂えるオフィーリアとして「幻の女優」たちが召喚される。不思議な脱線や飛躍によって、彼らは芝居の枠を踏みはずしてしまう。光と闇のポリフォニー。

 

 

今回、劇は大幅に改訂され、装いも新たに生まれ変わる。これは、滑稽で哀しい人間の“罪と罰”を、いま危うげな浮世に問う、美と戦慄の地獄めぐりへの誘いである。

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